表紙

繭介 誤解のないようにいうとくけど、ワシかて病気の
    話もするし、孫の話もするし、息子の嫁のことで
    グチもこぼすし、疲れてしもて口もききたない
    時もあるし、普通のオジイと同じやねン。
    ただナ、壊れたレコードやあるまいし同じ
    話ばっかりすんなッ、といいとなるわけヤ。

お繭 いいとなるだけやったらエエのんどすけど
    繭介はんは言わはりますやろ・・・。

繭介 すまん、すまん。以後注意します。

村長 えらい素直ですやんか。何ど弱みでも
    握られたはりますんか?

繭介 それやがナ。握られてるんやがナ。
    お繭ちゃんにそっぽ向かれたら、ワシの話
    聞いてくれる奴がいいひんようになるしナ。

お繭 ウチも繭介はんの話聞くのが楽しみやし
    嫌われんように気ぃひいてますねン。

村長 それは、それは、お熱いことで・・・。ほんで
    どんな話をしたはりますねン、お二人は?

お繭 この前は自民党総裁選のことどしたかなァ。
    小泉はんをおろさなあかん人等の事情や
    立場がようわかって面白おしたェ。
繭介 聞くだけとちごて、お繭ちゃんがエエトコついて
    くれよるねン。相対性原理の話をした時も
    浦島効果の話をした時も、うろたえたがナ。
    ほんで家に帰ってから又勉強のし直しヤ。

村長 なんと!恐れ入りました。年寄りのくせに
    そんなこと話したはりましたか。

お繭 ほら、ほら、村長はんも、そう言わはりますやろ。
    周りから変な目で見られるさかい、ウチらは
    人目を忍んで逢うてますねン。

繭介 お繭ちゃんの肩持つようで照れ臭いけどナ、
    村長ッ、その通りやデッ。何歳まではアホな
    話せなあかんとか、何歳からは死ぬことに
    ついて考えなあかんとか、そんなん何もあら  
    へんねン。学校の先生もお巡りさんも
    教師であり警察官である前にまず人間や。
    ワシらにしたかて年寄りである前に、まず人間や。
    人間にとって大事なことは年寄りにとっても
    大事なことやねン。そころをチャントわかってな
    一人前の村長とは言われへんデッ。
    これは総てにかかわる哲学の問題や。適当に
    かわしてすむ問題とちゃうんやデッ。