深い洞穴を思わせる
      重い空気で満たされた 汗も ほこりもない部屋に
      すだれは 打ち水の雫をきらめかせた
      澄んだ朝陽が苔の雫をきらめかせ
      散る花の 厚い花弁をきらめかせた



      わずか10坪ほどの庭を土塀がめぐり
      二株の夏椿に向き合う縁側で髪をほどいて寛ぐ女



カーマストーラの国の灼熱の太陽も
吹きつける砂塵も 時に横なぐりのスコールも
遙かに遠い 思い出であった
風を断たれ 喧噪を断たれ
生き物の気配すらない嵯峨野の奥に
人目を断たれた白椿



彼女は素足で雫を踏んだ
塀の瓦の彼方には 今は他人の京の街
表紙