宿の縁側に、水鳥のモビールが揺れていました。
部屋に案内され、お茶を頂いて浴衣に着換え
入浴前のひと時を籐椅子に身を委ねて、眼下に暮れなづむ渓流を
眺めながら、息子夫婦にプレゼントされた結婚30周年の記念旅行を
かみしめていました。
言い始めれば、どんな夫婦にも言うべき色々な過去があるのでしょうが
私達のそれは格段にドラマチックで、平均的な夫婦のそれよりも
格段に数が多かったような気がします。
今では穏やかな地域のご意見番として、若い人達にも
受け入れられている私の相棒と、外では優しい女房で通っていた
実は知る人ぞ知る意地っ張り女の私と、言葉少なに向き合いながら
揺れる水鳥の静けさを感じていました。
つるべ落としに外は暮れ、部屋の明かりに浮き上がる
水鳥の白さを感じていました。
  水鳥の宿

― 結婚30周年の旅 ―
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