しわぶき一ツない静寂の寺に、純白のモビールが
揺れていました。
宗教アレルギーを広言し見せかけや作りごとを
許せなかった彼女、かわいい仕草や顔立ち
からは想像も出来ないほどに荒ぶる少女を
演じきった彼女の告別式にしてはあまりにも
物々しく、あまりにもむごいセレモニー、
じんわりと染みる違和感に、言いようのない
涙がわきました。
大人の世界には、それぞれの立場があるのでしょう。
ご両親もご親戚の方々も参列しておられる
会社や役所の方々にも、それぞれの思いや
つながりがあるのでしょう。でも仲良しだった
私には悲しくて、かわいそうで耐えられない
思いの数時間でした。
それにしても祭壇の中央に、彼女が一番
大切にしていた猫のモビールを吊すなどという
前例のない発想を誰がして、誰が許して
くれたのでしょうか。現実との妥協を拒む
術もない彼女の無念を思い、最後の日
まで彼女を見守った菊にも負けない繭の
白さを思い、いくらか救われた気分で
寺を出ました。 ゴメンネ、ゴメンネ、と
つぶやきながら真実がまぶしい外に出ました。
 霊前に舞う猫

― 無言のレジスタンス ―
表 紙
戻る 進む
商品ページへ