市長のモビール

      ― 諸君ッ 若さだ 情熱だ!―
表 紙
ひょんなことから選挙に出て、とある地方都市の市長に
当選してしまった。街頭ではこぶしを振り上げてあれこれ
夢を語り、正義を叫んでみはしたもののいざ当選してみると
これが又一筋縄ではいかない。手垢のつかない門外漢だとか
若さとか情熱とか、今にして思えば意味もないたわごとを連ねて
よくもまぁ、平気でいられたものだ。
実はわが選挙区の有権者には内緒だが大工だってラーメン屋だって一人前になるには数年かかる。
市長だけが素人にも簡単にこなせるなんて、そんな
無茶苦茶な理屈があるものか。
とはいうものの、これはやりません、それはわかりません、では市民の理解が得られない。
そこで私は役所の窓口の天井から長い糸をぶら下げて、それに繭のモビールをひっかけた。
犬の窓口、猫の窓口、ハムスターの窓口というわけだ。窮余の一策というか時間かせぎの
だましうちというか、われながら汗顔の極みではあったが、これが又子供さんやお母さん達に
受けて、庶民に顔を向けた市長の役所改革が始まったなどと思わぬ効果を上げている。
テレビや新聞がとり上げてくれもした。勿論私は、そんな軽薄な人気だけに頼る市長であり続ける
つもりはない。しばらく時間をいただければ、きっと立派な市長になってみせる。有権者の皆さま
ごめんなさい。そして全国の素人市長さん、お互い智恵をしぼって頑張りましょうね。支持者の
期待を裏切らないように。
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