漆黒のグランドピアノに影を落とした5頭のペガサスは
いつも私と一緒でした。この家を新築する時に父はピアノを
置くための部屋をつくり、ペガサスのモビールを掛けてくれました。
子供の頃のように毎日ひくことはなくなりましたが気分が
落ち込んだり反対に舞い上がったりすると、やはりこの部屋に来て
ペガサスと向き合ってしまいます。仕事に悩み職場の人間関係に
悩み、時には恋の予感にふるえ夢に酔いしれる私の総てを
ペガサスは静かに見守ってきてくれました。
そぼ降る雨の日曜日、ぼやきながらゴルフバッグをかついで
出かけた父と、ホテルでのお食事会に出かけた母と
この広い家の広い部屋に一人残された私と・・・・・。
ピアノに寄りかかって下の一頭を指ではじいたら、次の一頭が向かってきて
残りの三頭が走り始めました。勝手気ままなペガサス達と
新緑を洗う静かな雨に今日は何故か、ご機嫌な私と
いつものように無言の対話が続きました。心も体も解放されて
とてもゼイタクな一人ぼっちの午後でした。
ペガサスのピアノ

      ― それは人生の伴走者 ―
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