出産予定日を過ぎてから1週間ほどの
間はわれながら浮足だっていたが
さすがに緊張のし疲れでうかつにも
同僚と会社帰りの息抜きをやっている最中に
私の初めてのお姫さまは誕生した。
慌てて病院に駆けつけはしたものの
妻にはコッテリとしぼられた。
妻の両親をはじめ、看護婦さんも院長さんも“パパやママに似て
かわいい赤ちゃんでしたね”と祝福してくれるのだが、正直にいって
わが姫が美人なのか、そうでもないのか私には全くわからない。
ぎこちなくうごめくわが子をかわいいと感じるには、もう少し時間が
かかりそうだ。
ところでわが家の真新しいベビーベッドの天井には、おきまりのメリーがわりに
智恵猫のモビールが吊ってある。けがれのない真白な智恵の輪と
清しい紺の智恵の輪とをくぐる優しい繭の猫に、今父親になったばかりの
新人パパの愛情を汲みとってふくれっ面の妻は情状酌量してくれるだろうか。
これからは部屋での煙草は厳禁だ。夫婦喧嘩は小声でやろう。
たまには、クラシック音楽を聞くことにしよう。
なにはともあれ、えらいことになった。ホントえらいことになってしまった。
お姫さまの智恵猫

       ― 新人パパ頑張る ―
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