私はエリック。ドイツから日本に来て飲み屋で知り合った日本人の
アパートに同居しながら某大学に通っている。彼がドイツに行った時、
私の母が親切にしてくれたとかでなけなしの金をはたいて、狐の
モビールを買ってきたわが家主は、信太の森のくずの葉がどうだとか
陰陽師の安部晴明がどうしたとか、それをドイツ語にして母に手紙を
書けという。この国の精神文化の根底をなす“一宿一飯の恩義”に
逆らえないのは当然のことながら家主の貧弱な語学力を思えば放って
おくわけにもいかない。
実は、率直に言って彼の選択は正解だ。
外国人から見て日本といえば絹、絹と言えば繭であるのは常識であるだけでなく
ヨーロッパ、特に北欧では長くて寒い冬を屋内で過ごすことが多い故か
モビールは結構人気がある。南の文化圏に属する日本にはモビールがない
と思っていたので、彼がさがしてきたのには驚いた。
木や金属の打ち抜きが多いヨーロッパ物にはない暖かさと立体感がいい。
母も喜んでくれるだろう。マイフレンドよ、母にかわってダンケを言っておこう。
ドイツへ行く狐

     ― ママさんありがとう ―
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